2006/01/16

強情なオンナに 拷問される

 なんでも、暗い小部屋で「ぽたっ、ぽたっ」という水音を何時間も何日も聴かせ、やがて「やっ、やめてくれえー。白状するから、水を止めてくれー」と言わせてしまう、恐ろしい拷問があるらしい。

 確かに「時計のチクタク音が好き」とは言ったが、普段は耳には入らず、気づいた時に鼓動のようなチクタク音が聴こえたらほっとするというだけで、暗ーい小部屋でチクタクしか聴こえなかったら、たしかに頭が変になるかもしれない。

 私もかなり愚痴る方だが、いっやあーノエミの「ぴーちく ぱーちく」にはかなわない。
このオンナ、一日中しゃべりまくっている。
 この頃は音楽もやっているので、音程の狂った歌を一日中歌っている。口笛も吹けるようになったので、こちらが愚痴り始めると、あごを突き出し、鼻を天に突き立てて「ひゅー」と口笛吹きながら逃げる。のび太みたいに。食事の時は歌も口笛も禁止というと、足を踏み鳴らしている。足が使えない時には、テーブルをタムタムにしている。油断すると食器も叩く。たまにテーブルの上の食品も床に落とし「ぐしゃっ」と親の神経を逆撫でる。

 辞書を読むのが好きなオンナは「テレビを発明したのは一体誰でしょう?」とか「水星までの距離は何キロでしょう?」とか一瞬頭よさそうに思えて実は、生活にはぜーんぜん役に立つとも思えない、難し気な質問をして来る。
応えられなければ「ママン、学校行った方がいいよ」  うるさい。

 子供部屋にはノエミの物が散らばっている。ノエミは物を捨てないオンナだから、9年分のありとあらゆる物が、部屋を覆い尽くしている。そこに物には未練を持たない、でも面白そうな物は全て自分のと信じていて、借りる時には敬語も使えず、返す時には投げてよこすゾエが加わったら、子供部屋は戦場と化す。

 「それは私のだ」「これは貸してない」「それはくれると言った」「私が大事にしている物を」叫び合いと取り合いと、つかみ合いととっくみ合い。

 我が家でただ1人、ノレンのようにクールに生きているJP(ジャン・フィリップではなく ジョン・ノレンと呼ぼう)がついに爆発した。
「毎日毎日同じことの繰り返し。耳障りな音が果てしなく続く。頭が変になりそうだあああ。水音の、あの拷問にあっているようだああ」ついに、キレた。

 子供に向かって大声を出すと、もうそれだけで恐ろしいお父さんのお出ましだ。
そして、プライドを傷つけられた娘と、父のめったにきけない大声にびびった娘が、いつまでもいつまでもさめざめと泣く。涙がぽたぽた落ちる。ぽたぽたぽた
 「やめろー。やめてくれえええ」

 なんで泣いている、なんで泣き続けてる、怒鳴られた原因はなんだったのか。子どもたちがそれぞれに泣かされた訳を唱え始めて、カエルの大合唱となる。
「あっちがわるい、おとうさんがわるい、わたしはわるくない」
 ゲロゲロ ゲロゲロ ぐわっ、ぐわっ、ぐわっ

 「ほら、だから、どうして私が爆発するのか、ちょっとはわかったでしょ」
頭を抱えているJPの背中に向かい、クールなおいうちをかける。

 人がキレてる姿を見ると、愉快だ。自分もあんな顔をしているんだろうか。
家じゅうに鏡をぶら下げたら、もっと穏やかになれるだろうか。
いや、それってもっと恐ろしい拷問かも。

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