2011/03/27

日の丸がひるがえる

 久しぶりに内海さんとメールを交換した。本当に久しぶりだった。内海さんというのは、わたしの一冊目の翻訳本の、挿絵を描いてくださった画家さん。東北で大きな地震が起こらなければ、内海さんが福島県のいわき市に住んでいることなど、すっかり忘れていた。それぐらい、ご無沙汰していた。

 内海さんが「お姉さんと仲直りをしましたか」という。画家の内海さんを紹介してくれたのは姉だった。わたしが姉の妹だったので、内海さんはよくわがままを聞いてくださり、すてきな本に仕上げてくださった。
 いや《お姉さん》とけんかしたわけではない。けんかしようにも、《お姉さん》はいつもわたしより大きく、知識と教養があり、モノをよく知っていて、太刀打ちできたためしがない。その《お姉さん》にも、たしかにご無沙汰している。内海さんに「お姉さんとみのりさんのメールアドレスはいつも仲良く並んでいる」と言われ、そういえば、《お姉さん》のメルアドは、ずいぶん前からわたしのアドレス帳からなくなっていたことに気付く。パソコンが壊れてから、従兄のアドレスやら、友人たちのアドレスやら、仕事でお世話になった人たちのアドレスも、画面上からは消えてなくなっており、なので、みなさんとご無沙汰したままだった。《忙しい》とかなんとか言っちゃって。。。

 地震が起こって、フランスではひどい映像しか見れないもので、わたしだって一応、日本のみんなのことを心配した。そして、連絡できる人から、ちょっとずつ、電話をかけてみたりした。東北地方には知っている人が内海さんと従兄の次男ぐらいしかいないので、個人的には本当によかった。現地の人はこれからまだまだ大変なのだろう。


 
 学校の方は、4回目の職場実習が終わり、先週と今週は試験地獄。それなのに日本から人が次々やって来るので、通訳のお仕事も忙しい。試験。。。大丈夫だろうか。。。
 調理師の免許は、もうたまに「ドーデモイイーー!」と本気で思う。この数ヶ月、凄まじく忙しい生活の中で、自分が本当に好きなことがよくわかって来た。早くこの学校を卒業して、6月になったら、わたしはせっせとモノを書くお仕事に戻るつもり。その他の付属の《夢》は、いま頭にあるものを書き終わってから、考えることにしようかと思う。書きたいことは山のようにある。

 とりあえず、試験勉強もせずに、昨日は、フランス剣道連盟のブログで、「剣道を日本語で」というレッスンの12回目の記事を書いた。12回目の日本語レッスンのテーマは、《武道精神》について。ちょっと難しい。でも地震のあとの日本人の姿について、フランス人は《武道精神》とつながりがあると思っているので、書かずにはいられなかったし、被災した内海さんと、ある剣道の先生から、「いまこそ武道精神が必要である」と言われたので、伝えずにはいられなかったのだ。大きなイベントがあると、平穏な日常では気付かないことが、なんとたくさんあることだろう。。。。

http://forum.cnkendo-da.com/viewtopic.php?f=11&t=3299

 日本の地震と津波と原発事故は、NHKのテレビの生放送をインターネットで追いかけて眠れない夜が続いた。日本のみんなと一心になっている気がした数日間。でも、実際には、夜が明けて、(仕事で)レストランに通い、家に帰って来て寝る。お腹は空くし、小言も言う。大して変わらない日常。。。春の陽気の中、桜が咲き散り、カレンダーでは春が来た。あまりにも平穏な日々。。。。いずれにせよ、遠い地球の反対側での出来事でしかなかったのか?自分には関係ないのか? そんな折、仕事帰りの道で、あるカーブを曲がったら、まっすぐ目の前にラグビーのスタジアムが見えた。いつものように大きなフランスの国旗が、青空にはためいていた。その横に、半旗になった日の丸が揺れていて、わたしは、テレビで見たあの惨事が、夢ではなかったのだと理解した。涙で前が見えなくなり、車を止めて合掌した。

 一日も早く、遠い海の向こうの人びとに平穏が訪れますように。

                       合掌