2006/06/30

希望の星

 この前、高校卒業資格試験で、日本語のテストを受けたリュドヴィックさんからメールが来た。日本語試験の結果はまだ出ていない。

 リュドヴィックさんは、在仏日本大使館のホームページで、独立行政法人科学技術振興機構(JST)公募というのに応募した。《戦略的創造研究推進事業》というものらしい。

 その公募に採用されたら、日本へ7年間の留学が約束される。留学の費用は免除される。リュドヴィックさんの夢は、アルツハイマー病や老人性痴呆症に関する研究と治療で、日本はその方面の学問が大変進んでいるという。海外からの学生を受け入れて、英語での授業を行なう大学もあり、世界で通用する免許がもらえるシステムもあるらしいので、日本で勉強したいのだそうだ。
 なんといっても日本が大好きだし。

 パリでの面接試験への案内が届いたので、7月上旬に試験を受けなければならない。
試験は、日本の高校卒業程度の化学と生物の試験で、英語で行なわれる。もちろん日本語の試験もあるが、初級程度で構わないとのこと。どうしてそのような公募に応募したのか、日本で何をしたいのか、将来どんなことに役立てたいのか、それをちゃんと発表できなければならない。

 将来の希望を持って高校を卒業しようとしている若者に、本当に久しぶりに出逢った。

 日本語は自分一人で勉強していた。美術も、文学も得意だ。彼の家に招待された時、きっと高いお金を払って買った、とても偉い画家の絵おぼしき素晴らしい絵が飾ってあって、「素敵ですね」と感想を述べたら、お母さんが「この絵は息子が描いてプレゼントしてくれた」と言ったので、JPと2人でうなるほかなかった。
 「息子はこんなに素敵な絵も描けるんですよ」と自慢げに言われたからというよりも、「自分で描いた絵を、お母さんにプレゼントする」という、その青年の優しさに感銘したと言ったほうが正しい。自慢の息子に違いない。

 バカロレアの試験を受けるために準備していたテキストは、夏目漱石の『我が輩は猫である』だった。翻訳ではなく、日本語で書かれた本だ。今どき日本の高校生でも夏目漱石を漢字とひらがなで読む学生は少ないのじゃないだろうか。びっくりする。

 こういう若者が、日本文化を大切にして、わざわざ海を渡って勉強してくれて、フランスで紹介してくれるなら、どんどん応援したい。刺激されて、私も勉強するしかない。

 リュドヴィックさんのお母さんは幼稚園の先生だ。この幼稚園では今年一年「日本」をテーマにした様々な活動が行われていた。日本から派遣されて来た保母さんが毎週幼稚園児に日本語を教えて、日本の踊りや折り紙も教え、発表した。日本年を締めくくる最後のお祭りに、招待していただいたが、ちょうど私たちも学校のお祭りの日だったので、行くことができなかった。リュドヴィックさんは、私の代わりに書道のデモンストレーションを行なった。きっと私より上手なお習字を披露できたに違いない。

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