2009/08/05

とっても難しいこと

 合宿で習ったことは山のようにある。
中学や高校なんかで、ちょこちょこスポーツ剣道をやっていた時代は、先輩に怒鳴られ走らされ、顧問は剣道のことなど知らず、試合に勝つことよりも、まず試合に出してもらえることが目標だった。なので、フランスに来てから、うんちくが大好き、歴史も理論も大好きなフランス剣道家たちに、嵐のような質問を浴びせられてから、
「自分は日本文化や伝統・歴史のことも、剣道のことも、ろくにしらない」
ということに気づかされる。
フランスの道場の片隅で、日本人に出会うと、みんな同じ意見だ。

 《我以外みんな師なり》
と、春のトゥールーズでの講習会で、ボルドーに住んでいる聡子さんが言った。
わたしたちは、フランスで、フランス人から日本の剣道を習っている。

 こんどの合宿で、スイスのそばのアヌシーというところから来た、一家で剣道をやっている加代子さんに出逢った。ご主人のムタードさんは垂れに《夢多道》と書いている。お二人はうなるほどすばらしい剣道をされる。奥さんに指導をするご主人、子供さんがたと稽古するお母さんを見て、うちなんか、家族バラバラ生活の中、ひとりで合宿に参加していたわたしなので、うらやましかった〜。

 最後の日の稽古のテーマは《攻め》。
一足一刀の間合いから、気合いと身体の威圧で攻め入って、相手から先に一本取るという練習で、元立ちという打たれ役がいるので、その相手に向かって、ぐっと攻め入りぽんと打てばいい。
〜そう思い、気合を入れてぐっと攻め入り、パシンと面を打ってみた。
「なかなか上出来」と思った。
そうしたら、ラブルさんがいつの間にか横にいて、待てと合図する。
「攻める」というのは、ただ、相手の懐に入っていくことではないんだよ。さあ、攻めますよと気合を見せて、ただポンと打てばいいってわけじゃないんですよ。と教えてくれる。

 それで、何度かの挑戦の後、先生の求めているのが、こんなことかもしれないと体感できたのは。。。
ぐっと攻め入る。これは相手を試すため。そこで相手がこらえなくて出てくるなら、出てこようとするその出ばなを打つ。
「出ばな面」という技の名前の通り。
相手に自分の気合を見せ、相手はこらえなくなって出てくる。その数秒間の緊張感を作り上げる役目が稽古の時の元立ちで、そのタイミングを上手に取って、きれいに打たせることが元立ちにとっては難しいところだ。
「さあ、相手が出てきたから、こっちも出て行ってあげよう。ぽん。打たれました」ということになりがち。でも、それでは肝心の「こらえる」という稽古をさせてあげられないので、この元立ちは失格。

 ぐっと攻め入ろうとする時、気持ちはもうすでに前へ前へと進んでいる。だから、相手はびくともしないのに、つい、さっさと面を打ってしまう。これもまた打ちかかる方の「こらえる」稽古にならない。

 ぐっと攻め入る。そして、相手をこらえきれなくさせるほどの気合を、声を出さずして発する。こらえて、相手が出てくる瞬間をとらえる。それを「ため」という。出て行きたいのに出て行かずにもっといい機会を狙う。我慢できるかということ。

 気持ちが前に突っ走っているときに、状況を冷静に判断して、相手を気で押す。その「ため」が。。。わたしには足りないと言われた。実は、これは前にも言われた。
 見た目お人好しすぎて、何だか、気押されることがない。ぜ〜んぜん怖くない。気迫が足りない。攻めが足りないと、言われたことがたしかにある。

 なるほど、こらえ性がなく、自分の中にためることができず、相手の出方を冷静に見据えることができない。
なにごとにおいても、わたしの弱点だ。

稽古の後で、ラブルさんはわたしに《四戒》を知っているかと訊いた。
「四戒」とは《驚・懼・疑・惑》 で、この四つは、人の邪念の中の邪念で、これがあると心が乱れ、瞬時の判断ができなくなり、尻込みをしてしまうといわれているもの。
おどろく、おそれる、うたがう、とまどう ことは、まさに剣道の四つの戒めだ。
驚くことも、懼れることも、疑うことも、戸惑うこともしない人間になれる日は、いったいいつになったら来るんだろう。道は遠いなあ〜。恩師の佐藤先生は
「無心道極」と手ぬぐいに書いておられた。「無心こそ、道を極める」わたしは邪念ばかりだなあ。

 そんなもろもろの教えを胸に、わたしは南に向かった。
さあ、おうちに帰ろう。
そして、明日はキャンプの終わったノエミを空港に迎えに行き、明後日はナルボンヌにゾエを迎えに行き、その次の日から、家族四人水入らずで、楽しい夏休みにしよう。
 ホクホクな気持ちを抱いて、帰路に着いた。

 夜7時に高速道路の出口から家に電話したら、5時には帰っているはずのJPが電話に出ない。7時半に携帯に電話がかかってきた。
「さっきから、ちょいと入院してる」という。
「へ?」
わたしなどはさきほど高速道路で眠くて中央分離帯にぶつかりそうになり、高速を降りた直後だったので、疲れていて、もう「へ?」しか言えない。けれども一気に目が覚めた。
家までまっしぐら。

 2時間後、真っ暗な自宅に帰りついたが、寄って来るのは腹を空かせたボボとベベのみ。家人には丸2日会ってないのだから、最低4食分は腹を空かせてる。
 面会時間も過ぎてしまったので、病院には行けなかった。
JP翌日退院。原因不明につき、再検査必要ながらも、急にどうということはないので、帰ってもよく、仕事にも行けますよ、とのこと。仕事なんかどうでもいいのに。

 驚かない、恐れない、疑わない、戸惑わない
と誓ったせいか?それとも無神経で無責任なせいか? 全然、心配してない。
JPは大丈夫にきまってる。
JPはもとより、痛くない、かゆくない、暑くない、寒くないの人、だとは分かっていたけれども、具合悪いかどうかも、全く感じていないらしい。ここまで鈍感だと、腹が立つ。

あ、つい、心が乱れてしまった。。。。

 検査の結果は8月中旬。
大丈夫にきまってます。

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