2007/09/22

9月5日 食べ歩き

 ミーさんは、朝起きるのがつらそうだ。夜中に目が覚めるので、睡眠薬まで飲んでいるらしい。かわいそうに。
わたしもつらいけど、ホテルに泊まっているというシチュエーションも、時間刻みで予定表が決まっているという生活も《別世界》過ぎて、もうわたしは《キャリアウーマン》化しているのであるのである。化粧もいちおうせねば、だし、台風が気になって仕方がないので、ちゃんと早起きをしてテレビをガンガンに掛けて、目はギンギンだ。
 お仕事でご一緒していただいている、ヨーロッパ・チョコレート担当のムーさんも、毎朝わたしの寝坊を心配して、電話をかけてきてくださるので、寝とぼけてはいられない。

 ムーさんにも「台風、来ますよ」と言われる。テレビの天気図から見ると、まあ、避けられない東京直撃コースらしい。数年前に東京を襲った台風の、大被害のもっともひどい映像ばかりが報道され、視聴者の緊張感が高まる。テレビって、どうしてこう人を怖がらせるような映像しか送れないんだろう。ミーさんが見てなきゃいいなあ。。。と思った。

 「台風、来ますよ」とミーさんをビビらせる魂胆で言ってみた。(イケズだなあ)
 わたしの意地悪な視線をちらっと見て、窓の外に目を向けるミーさんは、ホテルのレストランからよく見える皇居の森を指差して、「風も全然強くないし、雨も降ってないし、それはまた、おまえさんのウソにきまってる」と言う。台風のない国から来る人は、かなりクールだねえ。わたしのウソってなに?
 「でも、ものすごい風で、恐ろしい被害が出るんですよ。台風は怖いんですよ。まっすぐこっちに向かっているんですよ。」
わたしもけっこう意地悪だ。
 ミーさんはフンと鼻を鳴らして、寝起きは悪いくせに、朝食をがばがば食べながら、国会議事堂の固そうな建物を指差す。
「まあ、あれは動かんだろう。アメリカから爆弾をぶっ込まれても大丈夫そうだな」

 お迎えのアーさんは10時ぴったりに、車づけに待っていた。
「アーさんは、まじめだなあ。今日はもっとスローペースで行こうって、言ってくれないか」
でも、本日のアーさんの予定表がビッチリつまっていることを承知しているわたしは、そんなことは通訳できなかった。
「ミーさん、とっても疲れていらっしゃいます。朝寝坊して大変だったんです」
控えめな日本人女性を通訳に雇うから、こういうことになるのだ。ごめんね。

10時ーホテル 出発
10時半ー都内某百貨店 視察。
銀座に立ち寄る。(中略)
12時ー荻窪の「ル・クール・ピュール」訪問。(中略)ランチ。
14時半ー自由が丘(中略)の「オリジンカカオ」
さらに某人気ケーキ店訪問。ここは寄るだけのつもりだったのに、ミーさんがチョコレートをたくさん買って味見したいと言いだしたので、チョコレート選びが始まった。その間に、店員さんが店長さんを呼びに行ってしまい(?)フランス語がペラペラなシェフ登場。ミーさんと共通のフランス人の友だちの話題で花が咲く。シェフがぜひアトリエを見ていただきたいというので、アーさんが「予定が狂うんですけど。。。」と言っているのに、ミーさんは「いいじゃないの」と言っている。わたしに「アーさんが困ってるよ。ひひひ」とささやく。おもしろがってるね、このお人は。百貨店の視察よりも、個人のチョコレートのアトリエの方に興味をそそられるのも当然のこと。ここで暗くなるまで過ごした。
 雨が降り出した。ホテルで傘を借りておいてよかった。
 青山。表参道周辺。アーさんが《時速9キロ》で颯爽と歩く。わたしとミーさんは、フランス語で文句を言いながら、後ろから追いかけた。
ミーさん「ちょっとアーさんに、ひとこと言ってくれないか」
わたし「アーさんに追いつけたらね」

 夕方、ミーさんの個人的なお友だちの「どうしても」とのお誘いで、某寿司屋で、アペリティフ代わりにお寿司を食べることになった。わたしは外されて、三十分だけ本屋さんに走ることを許された。

(以下都合により本文抹消)

 その高級フランス料理店には、外国人と一緒に来ている日本人女性も何人かいて、ワインを飲む仕草がパリジャンヌみたいでカッコ良かった。

 よく考えたら、わたしだっていつも外国人と食事している日本人女性だけど、なんでこんなに違うんだろう?
JPは、日本人男性化している。しかも、薩摩隼人化していて、けっこうマッチョだ。普通のフランス人男性のように甘い言葉も知らないし、優しい仕草もできないし、ワインのことを教えようとか、気取ったフランス料理店に連れて行こうとか、そういうところが、ない。ラーメンだって音を立てて食べれるし。
 ミーさんに言うと「それはアンタが悪い。ワインを飲まんじゃないか」と言われた。
 「オトコは晩酌につきあってくれる、楽しいオンナが好きなのだ。」
あら、そうざんすか。

 行く先々で、わたしはミーさんに、グラスの持ち方やら、フォークの使い方を習った。ワインの入ったグラスをどんなふうに回すのか、などなど。数日後、フランスでミーさんに再会した時に「まだまだ修行が足りんな」と言われたので、JPに「いいオンナになる練習のため、ミーさんのひとつ星レストランに連れてって〜〜」とお願いしている。(ちょっと違うような?)ミーさんは、何百種類ものワインが常備されている蔵のある、素敵なレストランの経営者でもあるのだ。

 この高級レストランでも、至れり尽くせりのサービスを受けた。フランス語をちゃんと話せるボーイさんとガールさんがいっぱいいて、ワインのことを訊いてもちゃんと答えられた。この日は日本人のスー・シェフの料理だった。わたしは、フォアグラの乗ったリゾットを注文した。
 「マダム・エンドー、それって、お昼にも食べたでしょ?」
ミーさんはさすがによくわかっていらっしゃる。
「はい、お昼にもしっかり食べました。でも、味を食べ較べたいので。」
ミーさんは、あきれた顔をした。実は、チョコレートやケーキの試食でも、わたしはいつも同じものを食べている。一番シンプルで、誰でも作っているものを較べたら、シェフの違いもわかると思っているから。もちろん、誰も作ってないものを作っている人(というのは少ない。みんな似ている)のチョコレートは、かならず味わってみることにしている。そのことをミーさんは気づいていらして、よく感想を訊かれた。わたしの食べているものを横からつついたり、よく、自分と同じものをわたしに食べさせて、日本人としての意見と、フランス人としての意見を訊かれた。「マダム・エンドーは半分フランス人だからな」と言われた。
 
 ミーさんは、自分のチョコレートに確固とした自信を持っている。フランスでフランス人に愛されていることも自覚している。でも、それを日本でもちゃんと売っていけるかどうかは、いくら貿易会社の人が「売りますよ。売れるに決まっていますよ」と言っても、自分のなにが日本人にも受け入れられるのか、わからないと言う。できるだけ多くのチョコレートを売って、大量生産に繋げて、日本で一旗揚げようとは思っていないのだ。数は少なくても、一生つきあってくれるお客さんを求めているのだ。わたしはそういう姿勢に共感をしているので、この仕事が来るずっと前から数年来のファンとして、ミーさんに協力したいと思っているのだ。
 ミーさんのチョコレートが大量生産になって、質が落ちたら、わたしは彼を軽蔑してしまうだろうし、彼は名前が知られる代わりに、悪い評判が広がることなんか望んではいない。
 ミーさんがチョコレートを作る人でよかった。だからこそ、日本での仕事はとっても楽しい。ワインだったら、わたしは意見を言えないし、試飲もそんなにできないし、つまらなかったと思う。

 レストランでは、とっても楽しく過ごした。
「お昼のリゾットのお米は柔らかく、とろけるようだったけど、こちらのお米は固いんですね。でも、こちらの方がおいしんですけど?」とミーさんに言ったら、満足そうにうなずいて「合格だ」と言われた。リゾットのお米は、おかゆのようにどろどろではいけないのだそうだ。
 わたしは、ミーさんがフランス人のお友だちとしゃべっている間に、キッチンで立ち働いていた日本人のシェフに、リゾットがとってもおいしかったお礼を言った。ついでに、リゾットの上に乗っていた、とろけるようなフォアグラの焼き具合について質問した。
 シェフは親切に教えてくれたけど、秘密。。。むふふ。。。

確実に、絶対に、台風が来そうだ。
でもミーさんは「アンタはうそつきだ。わたしを怖がらせようと思って。」と言っている。
百聞は一見にしかず。明日のミーさんの反応が、楽しみイ〜〜。(イケズだなあ)

2 commentaires:

yumeko a dit…

通訳の仕事だと思っていたけど、食べ歩き研修だったんですか??羨ましい!(嫉妬)yumeko

nozomi a dit…

yumeko様

ええ〜、誤解ですよお〜。ちゃんと仕事してたんですからあ〜〜。ぶぶぶ
あなた様の予言通り、体重はうなぎ上りでありました。