2010/01/02

メゾン・ド・ヴィックにて

 Maison de VicはVicという村の、人里離れた杉林の向こうにあった。

 荒れ果てた農家を遺産として受け継いだある女性が、その建物の老朽化に悩みつつも、使い道はないかと模索していた時に、フランソワーズとステファンに出会った。
 フランソワーズとステファンには大きな夢があった。それは、行くところのない人に、屋根を提供すること。そこでは文化交流や、精神的・経済的な助け合いが行われ、行くところのなかった人たちに行く先が決まるまでのお手伝いをする。行く先をいっしょに探してあげること。帰る場所を作ってあげること。立ち寄り、持ち寄る場所を提供すること。。。などなど。
人が集まる場所を作るというのが彼らの夢だった。

 大きな夢がある。確かなプロジェクトに自信がある。
でも、お金はない。場所がない。
そういうときに、フランソワーズとステファンに六ヶ月の間家賃は要らないから、とりあえず場所を整えてみてはどうだろうかと《メゾンドヴィック》が提供された。メゾン・ド・ヴィックの生活用品一切は、貰い物や借り物だ。でも、なんでも揃っている。フランソワーズとステファンの貯金で修理され、きれいな宿泊所もできた。

 オープンしてからずっと人が絶えない。心、そして身体、その両方。。。行く場所を求めている人たち、温かい場所を探している人たちが、なんて多いんだろうとフランソワーズは言う。

 ダニエル家は家族四人健康で、雨漏りのしない家に住み、食べるものにも着るものにも困らない。だけど、「歌いながらいっしょに年を越そうよ?」と言われれば、「そういえば、ここのところ、歌いながら、明るい気持ちで年を越したことは、あんまりなかったなあ〜」というのが、JPとわたしの本音だった。
 わたしたちはとっても偏屈なので、知らない人たちといきなり大騒ぎなんてできない。おつきあいが下手なので、年末に誘われたり、パーティーに呼ばれたりしない。呼ばれてもほとんど出て行くことはない。社交的じゃないし、ひっそりしているのが性に合っていると思うのだ。じつは、こう見えても。
 気難しいJPでさえ、知らない人たちなのに「じゃあ行ってみようか」と思える、なにか、とっても惹き付けるものが、メゾン・ド・ヴィックにはあったのだ。

 フォランソワーズがロウソクを灯す。悲しみや絶望とともに消えてしまった《平和》と《信頼》と《愛》の灯火が、消えかけていた《希望》の炎に救われて、《平和》と《信頼》と《愛》のロウソクに、新しい灯を灯すというお話だった。


 生まれた国の異なる、五人の若者たちが、ホストファミリーで兄弟のように暮らしている。彼らは大人たちが食事している間に屋根裏部屋で考えだした即興のコメディーを披露する。ダンスも歌も、即興。身体の中からわき出しあふれるエネルギーを、恥ずかしがらずに、大人の前で披露する。見つめられること、褒められること、名前を呼ばれることが嬉しくてたまらないらしい。



 ステファンとジャックのギターのメロディーに合わせて、グループが四つに分かれる。フランソワーズの指導で、まずベースのコーラス。。。。音痴でも歌える軽いメロディーの繰り返し。ノエミもわたしも声を張り上げた。そして、テノール。アルト、ソプラノ。。。。ぜんぶフランソワーズが即興で考えたメロディー。JPもソプラノグループで声を張り上げてる。途中サンフランシスコ生まれのキムがソロでソウル風の歌を歌い、やがてフランソワーズの合図で四つのコーラスが一斉にキムに加わる。ギターのすばらしい演奏がソロを決め、大合唱と大喝采の中、全員参加の大コーラスが出来上がった。感動的な年末大合唱だった。




 フランソワーズが立ち上がり、イヴォンをダンスに誘う。曲はズック。マルティニークの音楽。1分ぐらいの二人の踊りに続き、フランソワーズがギヨムを誘い、イヴォンがノエミを誘う。そのあと、四人はそれぞれのパートナーを捜しに出かける。八人がまた別な八人を誘う。わたしはJPに誘われた。JPと踊ったのは結婚式以来。ゾエが写真を撮る。


 そうしているうちに12時の鐘が鳴り、ダンスのパートナーと、ほっぺたにキスをし合いながら、いっせいに「おめでとう」と叫んだ。

とっても楽しい夜だった。

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