2009/02/27

わたしのおシゴト

 なぜ「片仮名」で書いているかと言うと、ちょっと照れくさいから。
じつは、わたしは日本語教師になるための勉強をして、20年以上外国人を相手に日本語教師をやっていて、今もかわらず日本語教師だ。
日本語を教えている商工会議所に、日本人通訳の要請が入り「通訳ができるかはわからないが、日本人なら、いる」というわけで、わたしの電話番号がミーさんに渡された。

「ボンジュ〜・マダ〜ム」
ある春の日にミーさんが電話して来た。
 商工会議所の人から、ミーさんから電話があるかもと連絡を受けたいたので、滅多に電話のなることのない昼下がりに電話が鳴った時に「ミーさんだっ!」と思った。
 だから相手が「ボンジュ〜・マダ〜ム」「わたしの名前は。。。」と言い掛けた瞬間、名前も訊かずに、知ってる人への挨拶みたいに「ボンジュー・ムッシュ」と元気に答えた。その時、電話の向こうで相手が大きく微笑んだのが見えたような気がした。

 ミーさんは、わたしのことを知らずに電話して来たが、わたしはミーさんのことを何年も前からよく知っている。ミーさんのチョコレートとは、今のところに引っ越して来た5年ほど前からの付き合いで、JPは毎週ミーさんのお店で275グラム入のチョコレートを買っていた。クーベルチュールがブラックチョコレートのが我が家の定番で、275グラム入りのボックスには45個ぐらいが詰まっているのだが、だいたい3週間ぐらいでゆっくり食べる。
 ミーさんの作るチョコレートがどんなにおいしいかは、今では6歳になったゾエにまでよくわかる。

 ミーさんのお供をしての日本でのおシゴトは2007年の9月、2008年の2月、同年10月と、今年の2月と、これで4回目となった。そのおシゴトの内容は、じつは「食べ歩き」ではない。

 いちおう通訳、ということになっているが、ミーさんが我慢強いから首が繋がっているようなもので、わたしはビジネスの世界での語彙も少なく、経済のことはまったくわからず、しかも数字にも超!弱い。商売についての話し合いの席で、「ニジュウヨンオクって、0いくつでしたっけ?」とか、「1ユーロ130円だから、5万ユーロはええと。。。」などとやっていて、お話しにならない。今回は、見かねた《あーさん》が、10ケタまで打ち込める計算機をプレゼントしてくれた。それではボタンひとつで円とユーロが変換できる仕掛けもついている、なかなかの優れものだ。
 ほかにも、電子辞書やノートパソコンや、携帯電話なども常備しているべきが、有能な通訳なのかもしれないが、通訳業は半年に5日間ぐらいしかやらないし、日本でいただいた報酬は、日本にいる間に使い果たすので、まだ電子辞書も持っていない。辞書も持たずに仕事に出ているので、《あーさん》からは「みのりさんは、どんなフランス語の単語でもわかるんですか」と訊かれる。

 でも、このたび、いただいた報酬で、めでたくノートパソコンを購入したのであるっ!
仕事が終わるまではお店に行く暇もないし、報酬もらうまでは小銭さえもないので、パソコンはシゴトが終わってからようやく買ったために、シゴトでは使えなかった。
 
 今回もミーさんはハードスケジュール。バレンタインセールでにぎわう催し場でのサイン会や写真撮影、握手会のほかに、今回は特に、ファンミーティングも行なわれた。お客様を特別な部屋の一室にご招待しての、そのファンとの集いが、わたしにとっては数ヶ月前からのストレスで、ミーさんに台本を書いてくれとまで頼んで準備をした。本番では緊張して顔はこわばるし、たまに自分でもなにを言ってるかわからなくなることもあり、さんざんだった。でも、ミーさんはそういったお客様とじかに触れ合う時間が、いつもとっても楽しそうだ。

 ミーさんのところで修行をしたことのある人や、講習を受けたことのある人たちが訪ねてくれると、それはそれはうれしそう。毎年受け入れている日本人の研修生たちの多くは、フランス語もわからずにやって来ることが多いので、個人的に親しくなる時間がないまま、帰国の時期を迎えてしまう。帰国した研修生たちの多くは、言葉の壁もあるだろうが、連絡して来ないことが多い。近況を知らせない。年末年始の挨拶をしない。2度と訪ねて来ない。そういう人が多い。
 フランスは遠い。職人の世界は厳しい。言葉の壁は厚い。そんなこと、ミーさんはよくわかっているので、連絡して来ない昔の教え子たちのことを恨んだりしない。こうやって師匠自ら日本に出向き、再会が叶うなんて、みんなどんなにうれしいだろう。わたしは訪ねて来る人たちに、自分はミーさんのご近所に住んでいて、いつでもミーさんへの手紙を翻訳してあげられるので、遠慮しないで、ミーさんに手紙を書いてくれるようにと言う。旅立った教え子たちの行方を気にしているミーさんのために、みなさんが活躍している様子をぜひ教えてあげて欲しい。

 と、こんな雑用も加わって、ミーさんとのおつきあいは、日本でのバレンタインセールがすぎたらおしまい、ということではない。フランスに帰ってからも、たびたび電話やメールの交換をする。時には呼ばれてチョコレートの工房に出て行く。ファックスやメールの翻訳をする。テレビの撮影隊が来たり、取材や質問も入る。日本のビジネスマンをどうやったら傷つけずに、それでもガンと叱りつけてやるにはどうしたらいいだろうかと相談もされる。

 日本にいる間にラグビーのヨーロッパ大会で、フランスが勝ったのかどうかをとっても気にしていたミーさんだったが、それにはこたえてあげられなかった。今朝ラジオで、「フランスがペイ・ドゥ・ガールに勝った」と伝えていたので、ミーさんにメールで「おめでとう」と書いた。パソコンの前でにやけているミーさんの顔が見える。

 長いおつきあいができたらいいなと思う。


 

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