2007/10/07

ヴァイオリンの修理完了



http://pws.prserv.net/jpinet.okeiji/2002fra-cord.htm


 新学期になって、久しぶりに会う人たちから「ノエミ、大きくなったね〜」と言われる。そして必ず「お母さんを追い越すのも時間の問題だね」と付け足される。ノエミが中学生になったら、越えられるのは覚悟していたが、時間の問題となると、かなり焦る。

 ヴァイオリンの先生が、ヴァイオリンのサイズを1ランク上げたいと言って、音楽学校の棚から、3/4というヴァイオリンを出してくれた。今までは1/2というのを使っていた。先生が出してきたヴァイオリンは、何年も壊れたまま放置されていたので、修理が必要とのこと。音楽学校の費用で修理をしてもらうことになった
 
 一昨年、Cordes-sur ciel コルド・シュル・シエルという町で、わたしはチェロを習っていた。(*)コルドは『弦楽器の弦』という意味なので、これを直訳すると『空の上の弦』というようなことになる。チェロの先生のご主人は、その町でLuthierリュチエ、つまり、『弦楽器を作る職人』さんだ。なんともうまい組み合わせだなあ。

 彼が、素晴らしく優美で、当然のごとく高価なヴァイオリンを作る、世界的に有名な弦楽器職人さんだとは知っていた。音楽学校のぼろいヴァイオリンなんか修理してもらえるだろうか?チェロを習っていた時に、何度か電話で話をして、素敵な人だと感じていたので、勇気を出して電話してみた。

 コルドはその名の通り、小高い丘のてっぺんにある城塞の町で、車が一台しか通れないような細い石畳が、45度ぐらいの坂道になっていて、どんどん登っていかなければならない。観光客は、『地上』の有料駐車場に車を置き、延々30分ほど、身体を前屈みにして徒歩で登り続ける。てっぺんのホテル(写真)の辺りがほんのちょっと平らになっているだけで、そこを過ぎると、今度は45度ぐらいの下り坂になる。それで、町を通り抜ける。

 職人さんのお宅は、車が入る事を許可されている城塞の外側だから、車で来てもいいと言われた。ギアはずっと1か2のまま、わたしは道をどんどん登っていった。途中住人らしきお年寄りに、四回ほど道を尋ねたが、みんなに「車で行くの?運転に自信があるの?」と言われた。登っていくうちに道はもっと細くなって、最後の道はさすがに勇気が出なかった。世界遺産にもなれそうな重要文化財に車をぶつけて崩すか、あるいはJPが先週川に突っ込んでも壊れなかった車を、ついにこの手で廃車にするか。もちろん道には駐車スペースもなかったけれども、誰も来ないからいいやと、石畳の真ん中に停めて、アトリエまで入って行った。

 中世の石の家が、そのままそこにあった。玄関のドアも家具も、きっと何百年もそこにあったものだと思う。ありとあらゆる弦楽器が、さまざまな様子で、立てかけてあったり、ぶら下げてあったり、棚に寝かされたりしていた。古いピアノや楽譜立てや、壁に掛けられた職人さんの道具が、なんともいえない温かさに包まれていた。石畳の向こう、東の方の山を臨む場所に、コケの生えた低い石塀があって、草花が揺れていた。石塀の向こうには低い雲が立ちこめていて、向かいにあるはずの山も谷も見えない。
そういえば、この町は「空の上」にあるのだった。

 職人さんはじっくりとヴァイオリンを見て、「全部きれいにするために180ユーロぐらい掛かりそうです。いろいろな部品を取り替えるので。」と静かに言った。
 町の楽器屋さんで、去年から売りに出されている中古のヴァイオリンに、150ユーロの値札が下がっていた。でも、3/4サイズのヴァイオリンというのは、成長期の子どものサイズなので、一年ぐらい使って古くなる前に売りに出すことになるが、なかなか売れないタイプ。音楽学校のヴァイオリンをしっかり修理して、成長期の子どもたちに交代で使ってもらった方がいいというもの。

 じつは、音楽学校の会計係りはわたしなので、わたしが音楽学校の小切手帳を牛耳っている。ヴァイオリンの先生から、「なにもかも取り替えて、掃除して、新しいヴァイオリンみたいにしてもらったら、とても高くつくだろう」と言われていたので、覚悟はしていたけど、お店で買うヴァイオリンよりも高くつくとは、ちょっとショックだった。
 でも、結局、ノエミに3/4のヴァイオリンを買ってあげられないし、無理して買っても、きっと来年には使えなくなるので、学校のものをちゃんと修理をしてもらうことにした。

 金曜日、修理完了のヴァイオリンを取りに行った。

 夕方、ノエミにそのヴァイオリンを見せるのを楽しみにしていたら、学校で指を怪我したのでレントゲンを撮りに連れて行くようにと言われた。結局バレーボールでやった突き指だったので、大したことはなかった。

 いつもは毎日30分練習をさせるために、うるさくお尻を叩かないといけないのに、新しくなったヴァイオリン、サイズも1ランクで音も全然違うので、触りたくてたまらないらしい。木曜日に先生に見てもらう前に、どうしてもちゃんと構えられるようになりたいようだ。指を2本しか使わずに弾ける曲だけが載っている、一昨年の簡単な楽譜、練習帳第1巻を出して来て、自主的に『復習』を始めた。

 この前の木曜日に練習帳は第4巻になった。第1巻を復習しながら、「なんだ、すごく簡単」と言っている。この第1巻をやったころは、指が届かなかったり、ギーコギーコとへんな音しか出せなくて、よく泣いていた。

 ノエミ、成長したね〜と思わず褒めまくる単純な母親。。。わたしもフルートのお稽古に励まねば。。。

          (*)http://www.geocities.jp/nozomidaniel/kimamanikki.html(2005年9月14日の日記)

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