2009/01/26

礼で終わる

 お正月の挨拶をかねて、剣道の友達フレデリックから電話があった。ロデツのクラブで剣道のある火曜日と木曜日に限って、よくいろんなことが起こるので、休んでばかりいる。年が明けてからまだ一度もロデツまで行っていない。先々週と先週はJPが2週連続でパリに行っていたので、わたしは日本語のレッスンまで休むことになってしまい、剣道どころではない。

 今度の日曜日は、アルビの道場で合同練習があると、フレデリックに誘われた。
わたしはアルビAlbiとロデツRodezの間のカーモーCarmauxという町に住んでいて、今年はロデツのクラブに登録している。自宅から車で45分ぐらいのところで、稽古は夜の8時半から10時まで。子供たちに夕食を出して、みんなが食べている最中、7時頃に家を出る。帰りは夜中になってしまう。そういう日は、家族と1日にあったことなどを話したりもできないし、ゾエのシャワーや読み聞かせもJPに頼まなければならないので、心が痛い。本当は毎日でも剣道に行きたいのだけど。。。子持ちの主婦が夜の貴重な時間に家を開けるのは、大変なことだ。

 土曜日は南西地方に、強い暴風雨(「嵐」という単語)の予報が出ていた。すでに金曜日の夜から各地で被害は出始め、土曜日はうちの県に大きな被害が予想されていて、「用のない人は自宅から出ないように」という注意が盛んにラジオで流れていた。けれども、待っても待っても暴風雨らしきものはやって来なかった。なので我が家では予定通り、土曜日の午後ゾエが友だちをうちに呼んで、お返しに、夜は友だちのうちにお泊まりということになった。

 日曜日の午後まで友だちの家で面倒見てくれるというので、日曜日の朝というのに、わたしは7時半に起きて、9時からの稽古に出掛けた。日曜日の昼食は土曜日の夜に準備した。

 ひさしぶりに行ったアルビの道場は、ちょっと改修されていて、中もずいぶん使いやすくなっていた。ドレイ先生を追い出した場所に、新しい部屋ができていた。ロデツの2人の女性剣士仲間も来ていて、新年の挨拶と今年の抱負を語り合った。

 「みのり、見て、あれ」
ネヤンデが宙を指差す。
監視カメラがわたしたちを睨んでいた。
 今朝家を出る時に、JPに「あそこの道場は女子更衣室にカメラつけてるからいやなのよね〜」と言っていたところ。いつもは自宅で剣道衣に着替えて行くのだが、この日は剣道のあとお食事会もあるということだったので、ちょっとおしゃれをして出掛けることになっていた。シャワーを使う準備もして行ったが、じつはシャワー室にも監視カメラがあったらいやだな〜と思った。
 モニークは、更衣室のベンチをずるずる引っぱって来て、カメラの下に運び、更衣室の隅っこに忘れられていただれかの黒い靴下を、カメラにかぶせてしまった。おぬしなかなかやるな。

 「監視カメラの向こうにいるクリスチャン(例の、寝技が好きな元柔道チャンピオン)が、走ってやってくるかも」と言いながら3人で笑い転げていたら、いきなり女子更衣室のドアが外から激しく叩かれ、飛び上がるほど驚かされた。
「クリスチャンだっ!」
 わたしたちは大慌てで出て行ったが、結局ドアを叩いた犯人が誰なのかは分からなかった。「急げ」の合図だったのだと思う。クリスチャンではなく。。。

 ドレイ先生はお留守だったので、三段のベルナーが指導者となった。ちゃんとノートに稽古内容も書いて来ていて、自分なりに準備を整えたのだと思う。わたしの方が先輩なんだけど、ベルナーのクラブなので、ベルナーが仕切るのは当然だ。
 ベルナーはかなり興奮気味で、リキが入っていて、とっても《熱い》稽古だった。彼は教えるのが好きだ。
 一つ困ったのは、彼が《熱く》なるとわたしは《痛い》目に遭う。いやな予感がした。

 ベルナーは身長が185センチぐらいで、痩せている方でもない。そんな男性が、『ぎゃあー』と叫びながら竹刀を頭の上にかざして、降り掛かってくるのだから、油断はできない。油断していたら吹き飛ばされるし、吹き飛ばされた経験は何度もある。以前いたクラブには2メートルのアフリカ人がいて、「胴〜」と言って《面》を横からはり倒されたこともある。
 ベルナー独自の薪割りのごとき面をなんども打たれて、もう本当に我慢できないほど痛かった。
普段両足にマメができて潰れても、どんなに右手首が(小手を打たれて)赤くなっても、今まで稽古中に「痛いからやめて」と言ったことはほとんどないし、稽古中にひどいけがをしたこともないのだが、その日のベルナーの面は、はっきり言って殺されるかと思った。

 小さなたんこぶがいくつかできて、頭の中がじんじんする。大きなたんこぶがたくさんできる方が、まだマシだ。冷やして痛み止めも飲んで寝たが、日曜日の夜にはちょっと熱も出た。だからあしたは医者に行く。おでこと後頭部まで痛いような気がするので。
なんてことだろう!
あしたマスリ先生に、どうしたんですかと聞かれたら、なんと説明したらいいものか。
「身長185センチの大男に棒で殴られたんです」
と言ったらびっくりするだろう。
まさか、好んでそうさせた(頭を打たせる)なんて、誰が信じるだろう。
こんなことで頭にたんこぶを作っている主婦は、ご近所ではわたしぐらいだろう。
二の腕や首の下に、ツキを喰らってできた痣を見せたら、ドメスティック・バイオレンスとか言われて、JPが刑務所送りになるのではなかろうか。

 もっと稽古に参加して、ベルナーに痛くない面を教えなければ。。。
素早くて、正しい打ちのできる人の面は、痛くない。剣道は本当は危なくなんかない。
ちなみに、試合をしてベルナーに打たれまくったのではない。《元立ち》という打ち台代わりの人を、バンバン打つ《掛かり稽古》という稽古があるのだ。

 3時間も稽古をした。やりすぎた。でも、たんこぶを作った以外は、充実した合同練習だった。
みんなで車に乗って目的のステーキ屋さんに行くと、まっている人が多すぎたので、隣の中華料理店に入った。わたしたちのグループは全部で13人。そのうち有段者は4人で、他の人たちは剣道をはじめてまだ1年以内。まだ、剣道について質問できるほど技術的なものも習っていないし、他の講習会や試合も見たことがないので、共通の会話があまり見つけられないものの、2.3人のおしゃべりさんのおかげで、席は盛り上がり、とても楽しい時間が過ぎて行った。年代もバラバラで、若い人たちも《農家の息子風》やら《インド帰りのババクール風》やら、《高級車を乗り回す大学生風》までいる。そのうえ、2つのカップルに見えるその人たちは、じつは一組が姉弟で、もう一組が母子。場違いにも《ブルジョワ有閑マダム風》に着飾った妻を同伴してしまった《ピンボール屋の親父》ピエロ。ベルナーは《ビジネスマン風》で、フレデリックは《安月給な公務員風》で、わたしは《変な帽子をかぶった中国人》に見られていたはずだ。レストランに来ていた他のお客たちには13人の共通項が、まさか《剣道》だなんて、思いもしなかっただろう。そこにいた誰かひとりでも《剣道》なんて知っていただろうか。

 今年はもっと上達しようねー、えいえいオーで、解散となった。

礼っ!ありがとうございましたっ

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