2008/07/08

かみしめる せんべい

 日本の友だちから、小包が届いた。

 予告つきだったので、小包が届いたことには驚かなかったけれども、SAL便で送ったものが5日以内で届くとは、驚きの早さだった。
 ちょうど暑くなったところだったので、《ミネラル麦茶》はうれしい。さすが、てー様。感謝デス

 おおっ。これに見ゆるは《たこ焼きソース》。しかも3本!
(《♪あれに見ゆるは〜 おはらは〜 桜島〜♪》をもじってみた)

 空港の持ち物検査で、うかつにも、機内持ち込みの小さなスーツケースに、おたふくのお好みソースとたこ焼きソースを入れてしまい、名古屋の空港で「すみませんけど、これ、持ち込めませんよ」と、ほんっとーにすまなそうな顔をされた。液体はいけないって言うから、できるだけドロドロのソースを選んだ。これで完璧だと思ったのに、荷物検査のレントゲンには《どろどろ》も《さらさら》も瓶に入った液体に見えるらしい。セントレア空港のゴミ箱に消えた、あの、無念のたこ焼きソース。友だちの友情と愛情にどっしりと重い、ソースが、今ここに、再現されたのだあっ。

 そして、そして、てー様の小包でいつも何が一番幸せかというと、それは《おせんべい》

 おせんべいが好きだ。
丸一日、唇が塩でびりびりにしびれても、食べ続ける自信がある。

 せんべいを丸一日かじり続ける。。。。。。

 それは夢〜。そんな贅沢は20年ぐらいやっていない。

 2月に雪で凍結した日本に到着したあの深夜。24時間態勢で働いていることになっているわたしであったが、実はホテルを抜け出し、ホテル近辺の滑る道を、ひたすら歩き、やっと見つけたコンビニでせんべいを買った。
 ゆずの香りのお風呂に浸かりながら、せんべいをかじるという。。。まさに夢のような日本での第一夜。お風呂じゅうに《ガリガリ。バリバリ》が響き渡り、頭の中も《バリバリ。ガリガリ》しか聴こえなくなる。わたしはこうやってねじを巻く。

 せんべいの袋を開けるのは、大変な勇気がいる。何たって、12000キロメートルもの彼方から、わたしのためにせんべいはやってくるのだから、どんなにおいしくても、食べ方も味もわからないフランス人なんぞには、分けてあげられないのであるからして、それぐらい貴重なのであるからして、記念日にこそ、せんべいの袋は開かれるべきなのだ。

 が、しかし、欲望のおもむくままに、記念日も待たず(例えばもうすぐ結婚記念日だってことを、今、おもむろに思い出してしまったが)袋、もう、開けてしまったのである。

 袋はびりびりに破いてはいけない。
 これより、ちびちび時間を掛けて消化するとの前提であるから、湿気に気をつけねばならない。なので、袋の明け口は、できるだけ小さく、わたしの手が入る程度にする。(こうしておけば、JPの手は入らないし)
 さて、袋の中を遠くからみつめ、できるだけこんがり焼けているおせんべい、割れてないおせんべいを選ぶ。

 割れていないおせんべいを選ぶのには訳がある。

おせんべいは、丸かじりしてはいけない。

 小袋に入っている場合、ギザギザの右から3番目辺りを縦にそっと割く。
おおっと、ここで、焦って、おせんべいを小袋から出してしまっちゃ〜いけない。
気を沈めるのだ。
 おせんべいは、お餅同様、慌てて食べたら危険な食べ物である。落ち着くのだ。
麦茶ぐらいは用意しておいたほうがいい。食卓では何があるかわからないので。なにしろ、餅同様危ないんだから。

 丸いおせんべいを(四角いおせんべいは、おせんべい失格)まずは、小袋の中でまっ二つに割る。(羽衣あられに関しては、四角でなければ失格)できるだけカラッとさわやかな音を立て、できるだけクズを飛び散らさないようにすべし。

 ふたつに割ったおせんべいを、小袋の中で、くりっと回し、半分を半分に割る。
おせんべいは4分の1ずつ食べるのが正しい。
でも、おせんべいをきっちり4分の1に割るということは、長い修行を積んだ者のみに許される究極のテクニック。わたしはまだまだ修行が足りないので、たいていの場合は、小袋の底に木っ端ミジンなクズが残ってしまう。
 誰も見ていなければ、小袋を逆さまにして、口に流し込み、たいていの場合はむせて、麦茶にお世話になることになる。
 これを《育ちが悪い》という。

 ついでにいうと、親指と人差し指の先に残った塩は、ちゃ〜んと舐めなければ、おせんべいを食べ終わったとは言えない。いちおう、こういうことも、《誰も見てない場合》ということになっているが、《育ちが悪い上に、お行儀も悪い》人間は、《つい》やってしまう。おせんべいを食するにあたって、気を抜いたら恥をさらすのである。

 人目を気にしておせんべいを食べるのは、味や風味を見落とすことにもなりかねないので、やっぱり、人目のないところで、のんびり、こっそり、けれどもできるだけ豪快な音を立てて食べるのが、おせんべい。

 おせんべいは、できるだけ硬いのが、よい。

って、いつも言ってるのに、てー様は、今回、小包に《ぬれせんべい》まで入れてくださっていた。
わたしへの挑戦だろうか?
《ぬれせんべい》なんぞというものは、20年前には誰も語らなかったのではなかろうか?
 ただでさえ肉食ヨーロッパ人に較べると、アゴの筋力が弱いというのに、イマドキの日本人はおせんべいまで《ぬれせんべい》傾向とは、日本文化の明日も危ないというもの。嗚呼、悲しいねえ。

 2月に彦根のコンビニで、《こんがり焼けた色黒のおせんべい風》な絵に魅せられて、つい買ってしまった大きい袋がこともあろうに《ぬれせんべい》だった。湿ったせんべいなんぞ、せんべいじゃないっ!と叫んでしまった。もう二度と買うものかと誓ったのに、ああ、誓ったのに、《ぬれせんべい》が、12000キロの彼方から、我が家にやって来た。

 塩せんべいが終わったら、今度はぬれせんべいが待っている。できるだけ時間を掛けて塩せんべいを味わうとしよう。
ああ、どうしよう、食べたいけど、食べたくない。食べたくないけど、食べたい。
まがりなりにもせんべいなので、見ていると、やっぱり食べたくなる。塩せんべいの袋も、どんどん小さくなっていく。

 次の記念日は、ぬれせんべいか。
でも、結婚記念日にぬれせんべいなんて。。。ちょっと縁起悪い?
 4分の1にきっぱり割ろうにも割れない。しっとりネチネチな13年目の結婚記念日。この数字まで不吉?

 とりあえず、まだ来ぬ記念日のことは忘れて、おせんべいの4分の1修行に励む。

麦茶とおせんべい。。。もうなにもいらない。
子供もいないので、食べ放題だあ〜〜。残してなんかやるもんかあ〜。

 

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